私は広島のあるクリニックの勤務医として、2025年現在も精神科部長としてして働いています。
一般的に精神科部門では、患者さんの精神状態や発達の状態を知るために心理検査をしますが、その際、精神科医は一緒に働いている臨床心理士の先生に、
「〇〇さんが統合失調症かどうか知りたいので、ロールシャッハテストをお願いします」
とか、
「△△さんの知能と発達の程度が確認したいので、WAIS-Ⅳを施行してください」
とオーダーします。
それに対し、臨床心理士の先生は、労力と時間をかけて検査を施行し、検査結果を所見にまとめてくれます。
ただ、残念なことに、多くの精神科医は臨床心理学を勉強したことがないので、専門用語がびっしり書かれた心理検査のレポートを見てもちんぷんかんぷんなことが多く、
「結局、ロールシャッハテストは、統合失調症かどうかが分かればいい」
「発達の特性が確認できれば、WAIS-Ⅳとしては、それでいい」
ぐらいの感じでしか心理検査を捉えていないことが多いです。
もちろん精神科医は精神医学のプロです。精神医学は精神の異常について診断・治療をするための学問なので、精神科領域に関しては自信を持って我々は患者さんを支援することができます。ただ臨床心理学=臨床における人間の心理を扱う学問については、精神科医自らから積極的に学びに行かなければ、学習機会はほとんどないと言ってもいいでしょう。
私のクリニックで働いてくれている臨床心理士の先生は、いつも医師の私が読んでも理解しやすいように、噛み砕いた心理検査所見を書いてくれています。それを目にするに連れて、
「心理検査には、もっと奥が深い患者情報が詰まっているものなんだ・・・」
当時、54歳だった私は、そんな重要なことに目を向けて来なかったことに気付き、自分が恥ずかしくなりました。
「こんなにも患者さんに有益な情報が詰まっている心理検査の情報を、自分自身もっと理解できるようになって、患者さんに還元しよう!」
それが、臨床心理士試験を受けようと思った初めの一歩だったのです。
それから心理検査についての本をいろいろと読むようになり、
「どうせ心理検査の勉強をするなら、ついでに臨床心理士の資格を取っちゃおう」と軽いノリで心理士試験を受験をすることに決めました。
※ちなみに、医師には公認心理士の受験資格はありませんが(公認心理士が医師の指示の元で動くという体裁で作られたため)、臨床心理士の受験資格は一定の条件を満たせば与えられます。
その時はまだ、臨床心理士試験がどのようなものか全く理解していませんでした。
そこで、ネット書店から、日本臨床心理士資格認定協会が監修している『臨床心理士資格試験問題集6』(誠信書房)を購入し、試しに解いてみることにしました。
「なにこれ?全然わかんないだけど・・・」
精神医学に関する分野や精神科臨床の事例問題などは解答できるのですが、基礎心理学や各種心理検査やさまざまな心理技法などに関する問題はチンプンカンプンで、結局、全体の3割程度しか正解できませんでした。
心理学を勉強したことがない人間にとって、この試験を受けようとすることが如何に無謀で、大変なことかについて思い知らされることになったのです。